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Nostalgia

こんな本を読みました。

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木原千佳著・写真「Nostalgia」


本というより、写真集といったほうがいいんでしょうね。


ご存じの方もいらっしゃるかもしれませんが、
この一冊に凝縮されているのは、
なんと、2002年当時の瀋陽です。



木原さんのお父様は、1944年に満州で生まれ、
3歳のときに引き上げてきたのだそうです。


この写真集を生んだ木原さんは、
お父様の56年ぶりの帰郷に同行し、
はたまた自分につながるルーツを探して、
瀋陽への短い旅にでたのでした。



今となっては懐かしい瀋陽のなにげない風景。
写真と手記で構成される本書。


14年前の瀋陽か……


と思いながら、ページをめくりました。


毛沢東先生がそびえる中山広場あたりは、
ぜんぜん変わっていませんね。


駅前はもう、今ではバージョンアップされすぎていますが、
私は2006年に初めて瀋陽に降り立ったので、
写真集に残されているような
駅前の雑多な感じには懐かしさを感じました。



歴史的な事実についても、知らなかったことが
たくさんありました。


北稜付近は日本の敗戦当時、
郊外ということでたくさんの日本人が集まり、
なおかつ、たくさんの中国残留孤児が生まれた
という場所がらであったそうです。


また、かつて日本人が住んでいた家に
いまでは中国人が暮らしている、という記述や
中国人の視線の冷たさ、といった表現には、
どことなく、
まだぜんぜん「開く」気配のない中国の
殺伐とした空気が伝わってきます。(実感込み!)



この旅で、木原さんのお父様は、
生家を探すため、瀋陽市内をさまよいます。


かつての地図を頼りに、
たどり着いたそれらしき場所には、
ただ高層マンションがそびえたつばかり。


木原さんのお父さまが住まわれていた家は、
すでに再開発によって、取り壊されていたようです。


写真はどれも生活音が漏れ聞こえてくるような
臨場感があります。

なおかつ、
故郷を失い、さまよい続けるしかないような
お父様の無表情も挟まれ、

ここはいったいどこなのだ?

という、お父様の気持ちを追体験するような
瀋陽との心の距離間が広がっていくような、
そんな気持ちにさせられました。



混乱の時代を経て、
こういう思いで過ごしてこられた方、
たくさん、たくさん、おられるのでしょうね。


今となってはもう瀋陽は瀋陽、
満州の面影探してもね……


なんて、当事者でありえない私は
それ以上のことを考えたことがなかったのですが、
当事者にしてみれば、
そうやって片付けてしまえるほうが
おかしな話だ、と思いいたりました。


それが、人生の中でも特に、幸せな家族時代を
象徴するものであったとしたら、なおさら。


満州に対して、
希望と言い換えてもいいような思いがあったとしたら。


もう一度、この目で見たい。
ふるさとに帰りたい。


と思うのはとっても自然な欲求だと、
改めて気付かされたのでした。


でも、残念なことに、
今の瀋陽には、もう、見事になにもありません。


かろうじて残っていた商店街らしき建物や
住居も、中山路にならぶ歴史的建築物の
保存事業が終わったとたん、
ことごとくぶっ壊される運命をたどるようです。


もう、瀋陽は瀋陽の手で、
発展していく道を選んでいます。


そして、当事者であったはずの方々も、すでに高齢化。
もう、それぞれの記憶、いや宇宙の記憶の中にしか
存在しない場所になろうとしているのかもしれません。


そして、それでいいような気もするし、
それだけじゃさみしい気もする。



私は、戦争もしらず、満州とも縁のない人間ですが、
せっかく瀋陽人という夫を得たので、
この街をもう少し俯瞰で見つめてみたい、
それで発信できることがあれば心をこめて取り組みたい、
と、改めて、思ったのでした。



※木原千佳著「Nostalgia」
2003年、スイッチパブリッシング発行
ご興味おありの方は、アマゾンで取扱いあり!
近いうちに夫にも見せて、写真の示す風景がどのあたりが
教えてもらおうと思います。
今と比べたら、ちょっと前の、こういう瀋陽のほうが
断然おもしろかったのは事実でしょうね。



by tania0418 | 2016-05-30 00:16


フリーランスの編集・ライター。夫の故郷、遼寧省瀋陽市での、食、子育て、仕事。瀋陽の骨董市で見つけた雑貨を「わたしの中国雑貨店」にて販売。https://mychina.thebase.in/


by tania0418

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